高負帰還・電圧増幅器の実例

裸特性と負帰還

 この章では負帰還の章で述べた「理想的に負帰還をかける手順」を実践し、高忠実度増幅器の具体的な製作を行います。

周波数 12AX7

電圧増幅による負帰還の考え方

2段増幅

古典的2段増幅

 従来から多用されている2段増幅負帰還アンプです、
前段、後段、が同一の真空管が使用されて場合、前段の負荷抵抗は大きい値に設定され、後段の負荷抵抗は小さい値が設定されるのが通例でありました、マランツ#7のフラットアンプも同様の設定であります。

 この場合、高域のポール配置は、前段がP1Hと低い周波数となり、後段がP2Hの高い周波数となります、したがって負帰還の項目で述べた通り「初段はワイドレンジに」と逆の配列であり高速動作は望めません、何故この様な設定にしたか?、それは低インピーダンス出力を意識したためであります、NFB素子の送り出しとOUTPUTに接続される負荷の影響を避けたかったからです、このままでもアンプとしての機能は問題なく働きますが、スタガー比スパンも狭く高忠実度増幅器としては失格であります。



3段増幅

考慮を施した3段増幅

 初段には低内部抵抗で出力インピーダンスを下げ、高域特性のカットオフ周波数を十分に上げておきます、この初段は増幅率よりも重要です(P2H設定)、2段目とのC/R結合にてP1Lを形成。

 2段目の増幅、この段で高域P1Hを形成します、Hi-μ管の大きな増幅率と3段目のカソードフォロアーの真空管電極間容量のミラー効果で周波数が決定されます、終段がカソードフォロアーのため出力に接続される負荷の影響も受けにくくなります。



試作機製作

3段増幅

 初段はLow-μ管の12AU7を起用します、負荷抵抗を低めの51kとし十分な電流を流し、高域のカットオフ周波数(1MHz前後(P2H))を高く設定いたします、次に2段目とのC/RカップリングでHPFを設定いたします(159/0.01μF・330k)≒48Hz、これが低域第1ポール(P1L)となります。

 2段目はHi-μ管である12AX7で十分なゲインを稼ぎます、動作は負荷抵抗を大きくし電流を絞り飢餓回路に近い状態とします、最終段の3段目は12BH7Aのカソードフォロアーと直結といたします、12BH7Aの電極間容量と2段目の12AX7とのミラー効果でカットオフ周波数(P1H(14kHz前後))が形成されます。

3段増幅


 各ポールの設定周波数ですが、低域はパーツの精度が正確ならほぼ計算通りとなりますが高域はストレーキャパシティ、ワイヤリングの処理等不確定要素が加味されますから実測で確認を取っておいた方がよろしいでしょう。

 十分なスタガー比と的確なポール設定を施してありますから高負帰還が安定にかかります。



   ※[ 高負帰還アンプの注意点、真空管の電極間容量に注意 ]

 高負帰還アンプでは真空管の電極間容量がポールの周波数を決定しております、したがって他の真空管に置き換える場合はポールの設定を新たに考慮しなければなりません。

 例えば12BH7Aはテレビ球であるから、オーディオでは銘球の6SN7/5692に変更しよう、等は慎ましなければなりません。
高負帰還を意識しない、低帰還アンプなら6SN7の起用も許せるそですが、高負帰還では細心の注意が必要となります、
6SN7の2つのユニットは、入力C容量が異なるのです、高域ポールの設定を重視する高帰還アンプでは重要な事柄であります。

  真空管    No1/Cin------No1/Cout------No1/Cgp   No2/Cin------No2/Cout------No2/Cgp
  12BH7A    3.2pF    0.5pF     2.6pF    3.2pF    0.4pF     2.6pF
  6SN7/5692   2.8pF    0.8pF     3.8pF    3.0pF    1.2pF     4.0pF

 動作の設定がピンポイントであるため、テスター1台でという訳にはまいりません、ある程度の測定器は必要です。
 特に周波数特性の高域では10MHzクラスは欲しいところです、オシロスコープも必需品です。

  Fanction Generator Leader/LFG-1310 (0.001Hz〜10MHz)、 GAIN-PHASE METER HP3575 (1Hz〜13MHz)
  Audio Analyzer HP8903B (Distortion 0.001%〜100%)   、    


3段増幅 3段増幅

試作機の測定結果



 負帰還は30dB弱(≒29dB強)が安定にかかりました、位相が±90度以内、(周波数特性がoct/-6dB)であれば負帰還は全く問題なく安定です。

 負帰還後の周波数特性は1Hz〜1MHz(+0、−3dB)とワイドレンジに仕上がりました、100kHzの方形波で確認をとりますと、極少量のオーバーシュートが確認されましたので微量(1.5pF(C/f))の微分補正で整えました、仕上がりゲインは≒+26dBです。

 歪率特性も優秀であります、最低値は0.006%台であり、それ以下のレベルはノイズに埋もれてしまいます、この歪率をよく観察いたしますと、100Hzと1kHzはほぼ同値と見なして間違いないのですが、10kHzが少量高い値を示しております。

 原因は高域第1ポール(P1H)の周波数が14kHzでは10kHzでは既に降下が始まっております、したがってその分だけ負帰還が浅くなっているのが要因です、対策は14kHzの周波数を高くすればよいのですが、そうするとそれにスライドして高域第2ポール(P2H)も高くしスタガー比を確保しなければなりません。

 この様に高負帰還アンプは各ポールの設定と配置、スタガー比、等それぞれが密接にからみあっております、適当に作ったアンプに闇雲に負帰還をかけたりすると必ずしも良い結果にはなりません、例え歪が少々改善されたりノイズの低減があったとしてもそれが音質と結びつくとは限りません。

 しかし、十分に考慮された高負帰還アンプは無帰還アンプや美音追及型アンプでは到達出来ない高品位なアンプであります、優秀な物理特性と客観性のある音は高忠実度増幅器と言えるでしょう。


 高負帰還の試作は電圧増幅で行いましたが、電力増幅のパワーアンプでも基本的に考え方は同じであります、高性能パワーアンプの実現には出力トランスを高域第1ポール(P1H)に設定出来るモノでなければなりません。

 そのためには、高域減衰、oct/-6dB(位相:-90°以内)は勿論、高速動作にはカットオフ周波数の極力高い特性を持った出力トランスが必要となります、この様な出力トランスは既製品では存在しません、よって新たに開発は致し方ないでしょう。




高負帰還アンプへの目覚め

認めざるを得ない現実に直面

 ・・・・!

→→→→→→ 2016/SEP 

★★★ 続く ★★★

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