真空管アンプの歩み

負帰還に頼らないアンプ達

ウェスターン・エレクトリック

 ウェスターン・エレクトリックの業務用(劇場用)アンプです。

 高性能の追求とは無縁であり、業務用の無骨なスタイルです、
一部マニアには聖域的存在であります、回路的には単純な構造ではありますが、唯一興味をそそる部分は、出力トランス(プッシュ・プル用)のセンタータップより電源素の間に挿入されたチョーク・コイルであります。

 内部抵抗の低い三極菅PPの場合、データーには現れ難いですが、出力トランスの内部電磁結合はスムースに行えます、これは聴覚上の明瞭度が向上します。

 差動電力増幅やウィリアムソンの同相帰還が出現する以前に対処していたのは、流石ウエスターンであります。




オルソン・アンプ

 1947年、RCA社は自社の音響再生装置の宣伝用に、オーケストラの生演奏と再生装置をスリ変え、如何に優秀な再生装置であるか、
という催し物を行った、使用されたスピーカーはRCA社のLC1Aであり、急遽設えたのがこのオルソンアンプであります。

 出力段はポピュラーな6F6を三極菅接続とし、パラレルプッシュプルとし10W前後の出力を確保しております。

 負帰還は全くかかっておらず、全くの無帰還であります、出力トランスは当時の平凡な汎用品であり、高性能アンプを披露する、と言った物とは全く無縁であります。

 難しい部分が無く再現が簡単、それ故に近年アマチュアの自作には人気があります。


ウィリアムソン・アンプ以前、負帰還軽視の初期型アンプ

 ウィリアムソン・アンプによって、オーバーオールに20dBもの負帰還が誕生いたしました、それ以前にも負帰還は採用されておりました、 例えば映画館ユースのウェスターン・エレクトリックのシステムはマイナー的に採用されておりました、現在でこそ聖域化されておりますが、 高性能な増幅器とは幾分ベクトルが異なります、したがって思想的(高負帰還による高性能化)は、ウィリアムソン・アンプをもって元祖といたします。

ウィリアムソン・アンプ

ウィリアムソン回路


 負帰還アンプの元祖とも言えるウィリアムソン・アンプです。
 ウィリアムソン・アンプは完成品として製品化されたものではありません。

 出力トランスを負帰還ループ内に収め、20dBもの負帰還をかけたものです、出力トランスは独自のサンドイッチ巻きを考案し、 トランスと帰還との関係をはじめて考慮したものであります。

 A図は1947年開発当初のものあります、このままではこのアンプは発振に至り動作いたしません、 当時の出力トランスの詳細は解りかねますが、予想として負帰還理論が確定されるのは数年の時間が必要でした。





ウィリアムソン回路


 1949年、ウィリアムソンが発表した回路(B図)です、このウィリアムソン・アンプはまともに動作しないアンプで有名でありました、 プロ、アマチュアを問わずウィリアムソン・アンプには苦労させられたものであります。

 そんな当時、負帰還を論理的に整然と解説できる方稀であり、日本では東京工大時代の北野進氏でありました、
やがて日本ではラジオ技術誌において北野進氏(現 (株)エヌエフ回路設計ブロック 創始者)や武末数馬氏による問題提起が始まりました。

 この頃はじめて、スタガー比だのボーデ線図だのナイキスト線図等、訳の解らない事柄を山程存在するのを知り、まだ若造だった自分には、これはただでは済まない代物と恐怖を抱いたものでした、北野、武末、両氏の解説により負帰還の概略が身についたのはこの頃であります、現在の真空管アンプの現状を見るとなんとも情けないと・・・まっ、愚痴を言ってもいたしかたございません。

 この当時、ウィリアムソン・アンプの問題点を解決されてゆきました、大きな問題点は低域時定数(ポール)が3段であり、段間時定数(C/R)が同じ値に設定されております、それだけで位相は180°(正帰還)となります、更に低域時定数が変動する出力トランスが上乗せされており、20dBの負帰還を施しますと間違いなく不安定もしくは発振に至ります。

 低域時定数は負帰還量に応じたスタガー比を設け、時定数の距離を適度に離します、 高域の時定数処理は、出力トランスのカットオフを極力高い周波数にとり、アンプ側でスタガー比を持った積分補正で処理をするのが通説となり、その後のモデルとなりました。

 ウィリアムソンの大きな特徴として、裸特性がすこぶる良い事です、通常は増幅部分と位相反転部分を併用した(ミュラード型、類似の差動型、等)回路が用い入られ、高域時定数の設定が思い切って高い周波数にするには、利得と高域カットオフの板ばさみとなってしまいます、ウィリアムソンでは位相反転に利得がゼロのP-K分割方式となっております、言わば捨て石の様な役割でありますが、初段と出力菅のドライブには理想的な環境を与える事が可能であり、主観的ではありますが聴感上(*注1)好ましく感じます。



ウィリアムソン

  ※ポールを考慮したウィリアムソン※


 近年、アンプ側の高域積分補正を廃止し、高域の第1ポール(P1H)を終段の出力トランスに持って来た改良形ウィリアムソンが試作されております、出力トランスの高域減衰がoct/-6dB(位相-90゜以内)に近い事が条件ですが、アンプループ内は高速動作が確保され従来とは比較にならない高性能型が出現しております。

*注1
 カソード結合型(差動増幅 ミュラード型)位相反転の回路は、元来増幅素子のバラつきが極めて大きなトランジスターに向いた回路であり、電圧増幅である真空管回路では、極端な場合グリッド接地、カソード入力となります。

 この回路、はたして良い意味での、真空管の特徴を生かしているのか?、個人的には疑問を持っております。「真空管の特徴」参照


アルテックの業務用アンプ

アルテック



 劇場用スピーカーで有名なアルテック社は、それに伴う業務用アンプも製作されておりました。

 業務用のアンプですから、ピンポイントの高性能よりも、絶えず平均的性能を維持するっといった性格で製作されております。

 アルテック社の平均的なアンプ、A-333型です、初段に5極菅を起用、利得を稼ぎプレートには積分補正施し、簡素でありながら一定の性能を確保しております、業務用という制約の中では目的に見合った仕様となっております。


ダイナコ





 アルテックA-333型の骨格を生かし、キットメーカーのダイナコ社が製品化したMARK3です。


 回路が簡素で安定という特徴を生かし、電圧増幅部を基盤化しております。

 小型で簡素な割りに、出力菅には大型の6550(UL接続)を起用し、大出力を実現しております。



QUADU

QUADU

 古典アンプながら、この時代としては大変良く出来ております、NFBの補正は存在しませんが巧みな設計 は粋と言えるでしょう。

 高域の第1ポールはEF86(プレート抵抗180KΩ)とKT66との間のミラー効果で発生しております、出力トランスが第2ポールとなるのですが、出力管にカソード負帰還がかかているためレンジは拡大し仮想第2ポールとなっております。

 歪率は高い周波数より早く抜ける関係上、中低域と比較して高域は悪化する傾向となります。


QUADU回路 歪

 高負帰還をかけながら、負帰還による萎縮された音質が少ない、補正に頼らずポール全体の周波数を高く設定した効果であります。

 設計者、ピーター・ウォーカーのセンスの良さが伺えませす。


マランツ#7

マランツ#7

 マランツ#7が誕生したのが1959年、ウィリアムソン・アンプが誕生して10年になります、
その完成度は素晴らしく、製品化された真空管アンプでは最高峰と言っていいでしょう、高忠実度増幅器の資格を十分に備えております。

 回路設計の巧みさ、その結果脚色のない音、全体の仕上げと内様に相応しい美しいデザインは現在でも十分通用いたします。



マランツ#9

マランツ#9

 マランツ最後の真空管式パワーアンプです、

 マランツ社はプリアンプの傑作である#7と比べるとパワーアンプ、#2、#5、#8B、#9、の完成度は数段劣ります。

 同じ思想で設計されてとは信じられない、もしかすると#7が偶然出来た突然変異の可能性もありうるのでは・・・


 入力にはP−K位相反転回路があり、正相、逆相、を選択する事が出来ます、出力段はEL34のパラプッシュでUL接続と3結、切り替え可能です。

 パネルのデザインの良さは認めるものの内容が伴いません、出力ピーダンスからは相当強引な補正は感心出来ません。

マランツ#9 マランツ#2

 マランツ#2では初段に積分補正を挿入、
ここで第1ポールが形成されております。

 この時代では致しかたございません、市場では古い#2が何か特別に音が良い風に言われておりますが何の根拠もありません。

 高忠実度増幅器という観点からは平凡なアンプに過ぎません、
その理由は負帰還の項目を参考にしてください。


マランツ#8

 #8BになるとP−G帰還で補正をする様になりました、しかし依然として第1ポールは初段に存在します、

 #9になり初段は低rp、Hi−gm管である6DJ8を起用、低負荷抵抗に電流を多く流しカットオフ周波数を高く設定、この#9ではじめてまともなアンプとなりました、しかし、出力インピーダンスを見る限り比較的低い周波数より負帰還は抜けており、少々未消化な傾向が残ります。



マランツ

高忠実度とは無関係のT1

 トランス結合ダブル・プッシュプル
300Bドライブ、出力管845、

 無帰還であるが故、スピーカーの制動力期待薄。

 日本の悪い所を具体化したアンプ。

 偏った悪趣味のアマチュアならともかく、
臆面もなしによくぞ発売したメーカーは恥さらしの汚名は免れない。

趣味の製品とは言え、真に愚かなアンプであります。


マッキントシュMC275

マッキントシュMC275

 マッキントシュを代表するMC275です。

 マッキントシュはマランツと人気を二分するアンプであります、
 マッキントシュMC275は大出力を安定して取り出せる、当時としては稀な存在でありました、その用途はオーディオのみならず業務用途にも多用されておりました。

 初期のPAは半導体アンプの信頼性は低く、過大出力で直ぐにダウンしてしまうモノとの評価でありました、1970年初頭のロックコンサートのPAにはこのMC275が活躍したのを懐かしく思います。

 マッキントシュの大きな特徴は、独自の出力トランスとそれに伴うクロスシャントPP回路にあり、他のアンプとは一線凌ぐ大出力(chあたり100W以上)アンプであります。

 回路的には負荷をプレート側とカソード側に分離(それぞれの負荷は1/4となる)され、インピーダンスが低く設定出来る関係上高域のワイドレンジ化が可能となります、負帰還に関しましては、この時代の標準的なものですが、出力トランスの高域特性が伸びている分有利であります、出力インピーダンスからは出力トランスの高域ポールも相当高い周波数に設定されていると思われます。

MC275

マッキントシュC22

マッキントシュC22

 マッキントシュのプリアンプ、C22です、
現役時代はマランツ#7と人気を二分いたしました、
回路的にはEQにポジティブ、マイナー帰還が施され、その音質は
響きの中に、隈取を取った明瞭感があり、良い意味での特徴的でありました、
主観ですが、総合的にはマランツ#7の写実的な音質には及びませんでした。


テク二クス20A

20A画像

 1960年台半ば、松下電器産業の音響部門、テク二クスより真空管のOTLアンプ、テク二クス20Aが発売されました、東京オリンピックが終わり世は高度成長期真っ只中、メーカーが真空管アンプを本気で開発していた良い時代でありました。

 テク二クス20Aは当時発売された真空管50HB26を片チャンネル10本、ステレオで20本用いたベビー級パワーアンプであります、今でこそ、これはマランツ、マッキントッシュ、等の有名所のアンプを遥かに凌ぐ名器である、と言えるのですが当時はやや舶来カブレであったのは日本人の傾向でありました。


20Aルーツ

 テク二クス20Aは当時テク二クスの設計開発を一手に担っていた 石井伸一郎氏 の作であります、その石井氏が、電波技術、1966年9月号にこのアンプを懇切丁寧に解説しております。

 このアンプのルーツは古く同社の小林氏が1962年にラジオ技術に発表したOTLアンプが基礎となっている模様です、この頃からSEPPでは不可欠の打ち消し回路(ブート・ストラップ)は独自のものが試みられております、この回路は20Aで完成されており、以後この方式を「テク二クス型」と呼ばれる様になりました。


20A回路

 性能は優れております、高域第1ポールは初段にあるものの、そのカットオフ周波数は高く取られております、これは出力トランスの制限が無いため可能となりました。

 負帰還は30dBもの帰還量が広範囲に渡り安定にかかっております、
歪率も低く抑えられております、特筆すべきは出力インピーダンスです、高い周波数まで良好です、この出力インピーダンスは良好な高帰還アンプの場合、裸(無帰還)の周波数特性が読み取れます、出力インピーダンスの表を上下反対にすると無帰還時のグラフと合致いたします。

 唯一残念なのは部分の積分補正です、これは負帰還補正ではなくSEPPの上下バランスを取るもので最良とは言えません。

 テク二クス20Aは現在でも通用する性能であり、高忠実度真空管増幅器と言えます。


歪 歪 内部抵抗

LUX 魅力的なデザイン

SQ38D

 1960年台も末期になると、国産の真空管アンプも外国製にひけとらない製品が出てまいりました。

 特にLuxの一連の製品、デザインの美しさは日本人の繊細な感覚が反映された傑作品であります。

 音質に関しましては、Luxトーンとも言われた、良くヒイキな表現をすると、ウォームトーンと評されておりました。


MQ60

 イメージはシンメトリでありながら、何処かに小さな乱れが・・・、この乱れが緊張感を与えコントラストを強調、 見事。

 デザイン的には誠に素晴らしい出来栄えではありますが、音質は個人的には好みが異なり、一種の歯がゆさを覚えます。

古典球の氾濫

浅野

 大阪万博も終わった頃、日本も戦後のイメージ払拭された1971年、誠文堂の「無線と実験」誌に、往年の真空管アンプの紹介を浅野勇氏が投稿をはじめました。

 氏は私よりも一世代古い年台、いわゆる戦前、戦中、を経験した方であります、
真空管の歴史的知識は膨大なものであり、記事の内容もそれまで真空管アンプに矛盾を感じていた疑問を、説得力のある解説には、真空管アンプを志す者にとっては虜にさせるに十分魅力的でありました。


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